書評:★★★★★ロッテを創った男 重光武雄論

一般的な日本人にとって「ロッテ」という会社はガムやお菓子、アイスクリームを作っている一大企業に過ぎません。

本書はロッテの創業者である重光武雄氏の生きた歴史であり、それはそのままつい最近までの「ロッテ財閥勃興の記」であります。

本書で書かれている通り、ロッテ創業者の重光武雄氏は人前で目立つことを慎み、またその事業についてもまとめてあるものは少なく、いわば「謎の大企業」なのですが、大作の本書を読むことにより、ロッテの企業の生い立ちから急成長記、そして将来を託した子どもたちの仲違いと、ついには重光武雄氏自らが追い落とされるようにロッテを去っていく様を、まるでロッテの社員になったかのように鮮やかに再現されています。

本書を読む限りロッテは重光武雄氏の言葉通りの「カリスマ性」と「先見を見る能力」、また「時代に対応していくため、外部の専門家を積極的に登用した姿勢」により、急成長したことがわかります。

また韓国から見た日本と、逆に日本から見た韓国、そして重光氏の韓国ロッテへの事業の投資に、半ば憎悪を抱きながら眺めるしかなかった日本ロッテの社員の感情がとても興味深く読むことができました。

本書を読んで晩年のロッテ職員の離反劇の裏には、長男を重用する儒教的な思想と、カリスマ性が強い故の重光氏の独善性、また韓国事業に傾倒したが故の日本人社員の根深い嫉妬があったのではないでしょうか。

反対に離反劇によって「ロッテ」は「重光商店」からの脱却が図られ、いい意味での一般的な大企業化が進められ、悪い言い方では「つまらない大企業」になっていくと思います。

400ページに及ぶ本書で、図らずも読破に3週間もかかってしまいましたが、丹念な取材と相まって、1ページごとたいへん興味深く読むことができました。

ロッテの赤いチョコレートを食べながら読書することがおすすめです。(笑)

悲喜交交のエピソードで、まさに盛者必衰を間近で見ているような気分になりましたが、ロッテという企業がますます魅力に見えました。

評価は★5つ。おすすめです。