かつて野球は娯楽の王道でした。
シーズン中はテレビ局各色が巨人戦を中心とした試合を、時には同じ試合を同時中継していたものです。
まるで「野球ファンならずは人にあらず」といった様相で、野球に興味のなかった亡き父は チャンネルを変えながら
「今日は見るものがないな」と寂しそうにつぶやいた背中が鮮明に記憶に残っています。
そんな父親を見て半ば野球嫌いに育った私ですが、落合と野村監督だけは人として追い続けていました。
本書では中日監督に就任し、指揮を執った8年間を12人の選手たちの視線を負いながら書き綴ったドキュメンタリーです。
「勝つことが最大のファンサービスである」「勝利至上主義」が様々な誤解を生み、軋轢を生み
「多くを語らないこと」が選手の中で恐怖を生み、さらには身内である関係者に嫌われて行ったということです。
時代の移ろいは厳しいもので(善し悪しは別として)球団の目的が「優勝という夢を追う事」から
「目の前の経費削減」に変わりつつあるなか、落合だけは変わらずに「理論」で野球を捉え
人と違った角度で選手を定点観測し続けて、チームを優勝に結びつけた様子が、記者の目から見て
鮮明に描かれています。
球団から嫌われた監督が「契約終了」という名の「解雇」が告げられた、「落合政権の最晩年」に
(真偽はともかく)球団社長のある行為によって、チームがまとまったことが、なんとも悲哀に満ちており
皮肉にも「嫌われた監督」の最晩年にふさわしいエピソードとなっております。
かつてロッテから中日に移籍したときに「アッコにおまかせ」という番組で「なぜ中日に移籍したのか」と
問われたときに落合は「プロだから契約金額が高いほうが良いに決まっている」と答えて、周囲を唖然とさせていました。
「プロ野球だから勝つことが一番の目的」であり「プロ野球選手だから契約金額が高いほうに行く」のは
当たり前ですが、令和に至った今日でさえ、努力根性主義の日本人の中には、このような考え方は
受け入れられない人が多いのではないでしょうか。
そんな日本人へのアンチテーゼを示した監督として、大変興味深く読むことができました。
月刊HANADAの花田編集長もおすすめの本書の評価は星4つ。
丁寧な取材で幾分ボリュームが多い本書ですので、年末年始の長め休みの読書に最適です。
— 書評の星の数はAmazonのレビューのものをそのまま掲載してます(最大は★5つ)—