書評:★★★★★ でっちあげ―福岡「殺人教師」事件の真相―(新潮文庫)

エセ人権主義者たちと、それを支える「魔女狩り好きな日本人」が起こした歴史的な冤罪事件

今朝のインターネット番組で出演者が本書を絶賛していたため拝読。

本書の内容を箇条書でまとめると

1.モンスターペアレントの妄想と無責任な校長・教頭により、善良な教師が担任を外され

2.人権派を主張する朝日新聞や地方紙、また週刊文春により「ありもない事実がセンセーショナルに報道」され

3.自分自身が精神鑑定が必要な精神科医の誤診と、人権派弁護士たちの稚拙で執拗で陰湿な訴訟により
稀代の鬼教師とレッテルを貼られてしまった無辜の教師の裁判記録

ということになります。

本書を読んで印象に残ったのは「校長・教頭」を始めとする教育委員会の無能さ・無責任さ。
朝日新聞や週刊文春の取材力の無さと、自浄能力と反省能力の無さ。
また権威を衣に商売をしている医者や、弁護士の胡散臭さです。

著者が何度も述べている通り、一通り基本的な取材をしていれば、このような免罪は防げたはずです。
またメディアの報道を受ける立場である我々も「このような一方的な報道には、なにか問題が潜んでいるかもしれない」
と考えながら、事件の推移を見守る必要があるのではないでしょうか。

少し古い事例で言えば「松本サリン事件と同じような構造が延々と続いている」のが、21世紀現在の
日本社会なのです。
故に現在日本では誰でも「魔女狩り」の対象になる可能性があるのです。

一番憤慨したのは週刊文春でこの事件を担当した記者が、冤罪とわかってからも何の反省も謝罪もしていないことです。
事あるごとに人権を叫ぶメディアが、無辜の一教諭の人権を蹂躙し何も反省していない事実は決して許されません。

これは記者個人の問題でもあると共に、なにも考えずに情報を受け取る「魔女狩り好きな日本人の気質」、
また、マスコミ自体の構造的な問題であると思いました。
すなわち今現在大手マスコミが報道している中にも、このような事例が数多くあると思いながら
メディアに接すること・自分の頭で物事を考えることの重要さを改めて認識しました。

普段から「マスコミは人の不幸で飯を食っている」と思っていたのですが
正確には「マスコミは人を不幸にして飯を食っている」ということです。

読み始めるうちに教諭のことが他人事とは思えず、どんよりとした気持ちになったのですが
裁判が始まってからの教諭側の快進撃には、胸がすく思いがし、あっという間に読了しました。
(終盤近くに教諭の かつての教え子からのメッセージの引用があるのですが、とても良い一文でした)

現代日本が抱える闇をよく表している良書です。

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